― 中のひと ―
― 中のひと ―
リサーチャー職は、昔は企業に所属していても「個人商店的」と言われました。そのせいか、私は個人事業者になってからも働きかたに大きな違いを感じませんでした。職場がオフィスから自宅の一室に変わっただけという感覚に近かった。
でも今や、企業ではクライアント情報や個々のリサーチャーが持つ成功事例を、すべて「コンテキスト」としてAIに学習させることが可能になりました。コンテキストエンジニアリングです。企業に所属していればこの「スーパーナレッジ」を活用することができる。個人事業者が独りでそれをやろうとしても限界があります。「TRSの役割は今度こそ終わったかな…」と思いました。
うつ病→パンデミック→多重介護という波の中で、既に収入は激減していました(うつ病は現在は寛解)。家賃を抑えるために引っ越そうと思っても資金がない。そのお金は介護職のパートで捻出しました。学費免除の制度を利用して専門学校に通い、介護職員の資格を取ってあったのですね。ですが数か月後に事故で肩を脱臼してしまい、頼みの綱のパートも続けられなくなりました。
それでもまだできることはありました。うつ病になったのは開業してまだ3年という時期でした。そのため着手すらできずに放置状態になっていたツールの構想がいくつもありました。そこで構想の中のひとつを言語化して生成AIに伝えてみると、あっという間にコードを書いてくれました。涙が出ました。思い出せないぶりにお仕事でワクワク感を覚えました。
だから私にとってAIは複雑な存在です。数年単位でみれば、結局はTRSの存在意義を根こそぎ奪い去るかもしれない。でも創業時に思い描いていた業務プロセスはまだ完成途上であり、それを形にするためにはAIが必要です。既成のツールで代わりになるものにはまだ出合えていません。そこでもう少し納得のいくところまでやってみようというモチベーションが生まれました。
リサーチャー業務ではハードなマルチタスクが頻発します。それに対してスピードだけではなく、無駄を排したプロセスの力でお役に立ち、お客様の負担感を減らす。目指しているのはそれだけの小さなことです。しかし混乱が加速するこの時代にわずかでも安心を提供できるなら、リサーチの世界の片隅で生きてきた身としてこれ以上有り難いことはありません。
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